大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)626号 判決 1971年10月07日

控訴人

山岡伊次郎

代理人

花輪長治

被控訴人

有限会社末広商事社

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次のとおり付加、補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一、被控訴人は、次のとおり述べた。

(一)、本件建物(原判決添付物件目録(二)記載の建物)の登記簿上の所在地番であつた川口市大字芝字網の輪一、二七六番地の土地は大正一四年一〇月二二日分筆により同番地の一、二となり、昭和三二年三月二七日これがさらに他の土地と合筆されて同字一、二七五番地の一となつた。本件建物の登記簿上の所在地番も、当初は同字一、二七六番と表示されていたが、右地番の変更に伴い、昭和四四年一月二〇日同字一、二七五番の一とする変更登記がなされた。

(二)、株式会社センター商会が後に商号変更によりセンター電機株式会社となつたことは認める。

二、控訴代理人は、次のとおり述べた。

(一)、本件土地(原判決添付物件目録記載の土地の地番および本件建物の登記簿上の所在地番が被控訴人主張のとおり変更されたことは認める。

(二)、本件土地につき、株式会社センター商会のため仮差押登記がなされたのは、昭和三六年であり、本件土地の強制競売申立債権者センター電機株式会社は、株式会社センター商会が商号を変更したものである。

(三)、本件土地および本件建物が競売されるまでの経緯は、次のとおりである。矢作忠三郎は昭和一九年一月二四日加藤五兵衛から本件土地を含む一〇筆の土地を買い受け、昭和二〇年八月頃他の土地上の建物を本件土地の部分の上に移築したが、これが本件建物であつた。矢作は昭和三二年三月二七日右一〇筆の土地のうちの川口市大字芝字網の輪一二七六番の一および二を含む七筆の土地を同字一二七五番の一に合筆したが、その後さらにこれを順次本件土地(一二七五番の一)ほか一九筆の土地に分筆した。ところで、右分合筆にあたり本件建物の敷地の地番は、昭和二〇年八月当初より現在にいたるまでなんら変更されることなく、一二七五番の一の地番のままである。しかるに、昭和三五年六月二七日本件建物について保存登記がなされた際、浅賀愛康が矢作忠三郎に代位して本件建物の敷地の地番を事実と異なる一二七六番として登記申請手続をしたため、登記簿上事実と異なる表示がなされるにいたつたものである。矢作は、昭和三六年一月二三日鈴木蓉子に対して本件土地および本件建物につき売買を原因とする所有権移転登記を経由したが、その後の本件建物の競売についても、競売裁判所たる浦和地方裁判所は誤つた登記簿上の敷地の地番を真実なるものとして競売手続を進行し、かくて昭和四一年一一月二日被控訴人がこれを競落取得するにいたり、本件土地の競売についても、なんら法定地上権等の負担のないものとして競売手続が進められ、昭和四三年三月一三日控訴人がこれを競落取得したのである。

(四)、本件建物の登記簿上の所在地番を真実に合致させるための昭和四四年一月二〇日付変更登記は被控訴人の偽造した関係書類に基づいてなされたものであるのみならず、控訴人が本件土地を競落取得したのはこれより先の昭和四三年三月一三日であるから、本件土地について法定地上権が成立するわけがない。

(五)、被控訴人は、本件建物を競落した後も、一六か月間登記簿上の所在地番を真実に合致させる手続をとらなかつたものであり、その後本件土地の競落人のあらわれるのを待つて変更登記を経由したうえ、右競落人に対して法定地上権を主張するが如きことは信義誠実の原則に反するものというべきである。

三、証拠<略>

理由

本件土地上に本件建物が存在することおよび本件建物について昭和三六年一二月九日所有者鈴木蓉子とその債権者岩佐テルエとの間に抵当権設定契約が締結され、その後岩佐の申立により競売がなされ、昭和四一年一一月二日被控訴人が本件建物を競落してその所有権を取得したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、第二および第四号証によれば、右抵当権設定当時本件士地も鈴木蓉子の所有に属していたことが認められる。

また、前顕甲第一、第二号証および成立に争いのない乙第二二号証によれば、本件建物について前記のような抵当権設定登記のなされる以前の昭和三六年五月三〇日本件土地について株式会社センター商会のため仮差押登記がなされ、その後センター電機株式会社(同会社が株式会社センター商会の商号に変更したものであることは当事者間に争いがない)の競売申立により強制競売手続がなされたことが認められ、控訴人が昭和四三年三月一三日競落によつて本件土地の所有権を取得したことは当事者間に争いがない。

よつて、右のような事実関係のもとにおいて本件土地につき法定地上権が成立するかどうかについて考えるに、民注三八八条の規定により法定地上権が成立するためには、建物またはその敷地について抵当権が設定された当時右建物およびその敷地が同一の所有者に属すれば足り、その後において右建物およびその敷地が所有者を異にするにいたつても法定地上権の成立を妨げないのであり、したがつて、被控訴人が本件建物を競落取得するとともに本件土地について被控訴人のため法定地上権が成立したものというべきである。

そこで右法定地上権と仮差押によつて保全された所有権移転との関係を考察すると本件建物について抵当権設定登記のなされる以前に本件土地について仮差押登記のなされていたこと前記のとおりであるから、右仮差押登記後に競売法にもとづく右抵当権の実行の結果競落により本件士地について法定地上権を取得した者は右仮差押が本執行に移行してなされた競売手続により本件土地を競落取得した者に対し法定地上権をもつて対抗しえないものというべきである。そして、鈴木蓉子は本件土地についてみずから地上権または賃借権を設定したものではないが、本件土地上の本件建物に抵当権を設定しこれによつて建物競落人たる被控訴人のため本件土地について法定地上権が成立するにいたることは、仮差押の有する処分制限の効力に牴触する結果を生ぜしめるものであることが明らかであり、本件土地について鈴木の処分によつてかかる権利を生ぜしめたのと区別すべき理由がないものといわなければならないからである。

すなわち、被控訴人は右法定地上権をもつて控訴人に対抗しえないから、被控訴人の本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく、理由がないことが明らかであり、右請求を認容した原判決は取消を免れない。

よつて、民訴法三八六条に従い、原判決を取り消して本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(西川美数 園部秀信 森綱郎)

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